妄想雑記

       おとうさんと娘(養女)


第1回 「カゼひきさんは、リセイが心配?」

 秋の急な温度の変化で、風をひいてしまいました。朝はなんとか娘を学校に行かせたのですが、それからさらに悪化して会社を休んでしまいました。
「ただいまー」
 案の定、平日の昼間に寝ている私を気遣って、娘のちせ(仮名)はいてもたってもいられず、学校からランドセルをガシャガシャ鳴らせながら、ダッシュで帰ってきたようです。いい娘です。
「ぴっちさん、病気治った?」
 こぼれんばかりの大きな目で心配そうにのぞくちせ(仮名)の頭をなでながら、私はがらがらの声で答えます。
「もうすこししたら、おきられるようになるから。おやつはいつもの戸棚に入っているから、食べていいぞ」
「いらない」
 ちせ(仮名)は小さな声で言います。
「なんでだい?」
「ぴっちさんが元気じゃないのに、ちせだけおやつ食べるなんてできないよ!」
「そんなに気にすること無いよ。ほら、風邪がうつっちゃうから、リビングの方に行きなさい」
「えー。ここがいいのになぁ」
 顔だけちょこんとベットに乗せてちせ(仮名)はピンク色のほほをふくらませます。
「ほら、むこうにいってなさい」
「えー。あ、そうだ! ちせが添い寝してあげるよ。この間、ちせが風邪ひいたとき、ぴっちさんがちせにしてくれたじゃない。あのときも一緒に寝てもらってからすぐ治っちゃったから、ぴっちさんの風邪もすぐなおるよ」
「ば、馬鹿なことを言ってないで、早く寝なさい。今、私は頭が痛いから理性……ゴホゴホ」
「ほらっ、ぴっちさん、ちゃんと寝てなきゃ」
「こらっ、勝手にベットに入るんじゃない!」
「だってぇ、入らないと添い寝できないよぉ」
「だから、しなくてもいいと……」
「あったかーい。今日は外けっこうさむかったんだよぉ。ぴっちさんはいつもぬくぬくだね」
「ち、ちせーーーー!」

 なんとか耐えましたが、早く治さないとリセイが暴走してしまいそうです。がんばろ。


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第2回 「よくできた娘とダメオヤジ」

「サンタさん、早く来ないかな〜」
「おいおい、ちせ、クリスマスまではまだまだ一ヶ月近くはあるぞ」
 娘(養女)のちせ(仮名)は、ベランダの手すりからうすぐもりの空を眺めている。肌寒い日曜の午前、まだまだ町は目を覚ましたばかりで、外を歩く人影もまばらだ。
「ちせ、パジャマでそんなところにいたら風邪引くから中に入りなさい」
「はーい」
 スリッパをパタパタと音をたたせながら、娘は部屋の大きな椅子に飛び乗った。
「はやくサンタさん来ないかな〜」
 宙に浮いた両足でバタ足しながら、僕の顔を見ながらちせは言う。
「もうお願いは考えたのかい?」
「うん!」
「へー、それは気が早いなぁ。どんなお願いするつもりだい?」
 プレゼントのリサーチがてら、僕は聞いた。こんな直球の聞き方が通用するのもいつまでだろう。それでもなるべく『サンタ=僕』という図式を知るのを先送りにしたい。どこまで出来るかはわからないけれど。去年は弟がほしいといわれてかなり困ったのを思い出して、僕は一人苦笑した。
「ん〜、どうしようかな〜。おとうさんに教えるのやだな〜」
 眉間に皺を寄せながらちせは考え込んでいる。まずいな、ここで聞けないとなるとプレゼントするのに困ってしまうじゃないか。
「まあまあ、ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃないか。誰にも言わないからさ」
「え〜、おとうさんだからこまるんだけどな〜」
「そう言わずに、後でハーゲンダッツ食べていいから教えて」
「いいの!? じゃあ、教えてあげる」
 このハーゲンダッツさえ与えたら何でも言うこと聞いてしまうのは直さなければいけないなと思いながら、先を促した。
「雪、降らせて欲しいの」
「雪?」
「うん。これっくらいすごい雪ね」
 手を自分の頭の上で水平にしながらちせは言う。自分の身長ぐらいの雪を降らせろって言うのか。これは去年とたがわず困った注文をしてくれたもんだ。
「なんでまた雪なんだい?」
「だって……」
 少し話しにくそうにしてから、僕の目を見ながら照れくさそうに彼女は言った。
「おとうさん、最近仕事ばかりで夜も遅いし……。すごい雪とか降ったら会社お休みになって、ずーっとちせといっしょにいてくれるかな〜って思って……」
「そうか……ごめんな、ちせ」
「う〜、だからおとうさんに言うのやだったのに〜」
 ちせは僕を小さなこぶしでぽこぽこたたいてきた。
「クリスマスには早く帰ってくるから。ちょっとだけ待っててくれよ」
「うん!」
 ほほをちょっと赤くしながら、ちせは元気に返事をしてまたベランダの方に駆けていった。

 ……あやうく抱きついていただいてしまうとこでした。離れてくれてよかったぁ。


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第3回 「雪の降った日」


「おとうさん、おはよ!」
 今日のちせはやたらテンションが高いな。まだ半分閉じた目でこの寒いのに窓を開けっぱなしにしてベランダのそとにでているちせを見る。
「雪! 雪だよ、おとうさん!」
 さほど広くないベランダではじゃぎまわる。子どもと犬は雪が好きらしい。雪国に暮らしたことのある僕にとって雪は邪魔なものでしかないのだけれど。寒いし。
「ちせ、中に入りなさい。パジャマで外にいると風邪ひくから」
 そう呼びかけると、とぉーっという掛け声と共に中に入ってくる。朝から相当ハイになっているようだ。
「えへへ、おとうさんもさわる?」
 ちせの小さな手の中には、野球のボールほどの雪が握られている。
「つめたいから、嫌だよ」
「つまんなーい!」
 そういうとベランダの外に雪だまを放り投げる。
「ほら、手が真っ赤じゃないか」
 ちせの手を取ると、まさに雪のように冷えている。
「あったかーい。お父さんの手、あったかいねー」
「ちせの手が冷たいんだよ」
 僕はそう言いながら、しばらく娘(養女)の手を握りつづけていた。


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第4回 「ねぼすけおとうさん」


「お父さん、朝だよ〜。おきなさーい」
「うぅん」
「起きてよ〜」
「昨日、夜遅かったんだよ。ずっと『はじめてのおいしゃさん』してたから。もう少し寝かせてくれ」
「ダメ! すごいいいお天気なんだよ」
「ちせ(仮名)、あと30分」
「ダメだよ。こんな天気、もう無いよ。早く起きて!」
「うぅ、眠いよ、ちせ」
「もうっ。ダメなお父さん」
「そう言わずに、ちせも布団に入って寝なさい。ほら」
 バサッ
「うわっ、まっくらー。でも、あったか〜い」
「こっちに来なさい」
「うん」
「さー、寝るぞぉ」
「やだよ〜だ。おひげ、じょりじょりしてあそぶんだもん」
「こら、寝れないじゃないか。そういう悪いことする子は、こうだ!」
「きゃあ、やめて、くすぐったーい。も〜、しかえしだぁ」
「うわっ、やめれ、くすぐったい。……こらっ、ちせ。そこはだめだって。反応しちゃうだろ
「ねえねえ、なんだかコレ、大きくなってるみたい。おもしろーい」
「ちせっ! そこはさわっちゃいけません。大変なことになるからっ」
「え〜、だっておもしろいんだもん。あっ、何かちょっと出てきたよ。おもらしだ〜、大人のくせにぃ」
「こらっ、やめないか」
「だめね、おとうさん。ちせが拭いてあげるね……って、お父さん?」
「もう、もうだめだ! ちせーーーーーっ!!」
「え、ええっ? おとうさーーん!?」

 ……
 萌えすぎです。
 こんないたずらっ子では理性が吹き飛んで大きなお注射してしまいそうです。何とか今回は耐えましたが、いつまで耐えられるか。
 清く正しく育って欲しいです。


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第5回 「おつかれなおとうさんの妄想」


 仕事が忙しすぎてもうずいぶんとまともに家に帰っていないです。
 こうなってくると心配なのは親子の関係。ここ何日か娘(養女)のちせときちんと会話できていません。朝に少し顔をあわすぐらい。ただ、親子とも朝非常に弱いため、ろくすっぽ話すこともないのです。
 今日は珍しく予定通り早く帰れました。とはいっても9時すぎているので、ちせはふてくされてベッドの中のはず……なのに、下からのぞくリビングの窓はこうこうと明りが灯っています。消し忘れでしょうか。
「ただいま」
 起こさないように小さな声で中に入ろうとすると、まだ生乾きの髪でちせが顔をのぞかせます。
「おかえりなさい、お父さん。ちょっとおそかったね」
「ああ、ごめんな」
 ちょっとひんやりするほほをなでながら、私は部屋の中へ入りました。ちせはキッチンの方に向かいながら言います。
「いいよ。それよりぃ、ねえねえ、お父さん。ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも、ワ・タ・シ?」
「ち、ちせ! 何を言ってるんだ! どこでそんなの覚えてくるんだ」
「えー、ミヨコちゃんがこう言えって言ってたんだよ。おとうさん、喜ぶからって」
 私の帰りが遅いので、妹の美代子に食事の支度を頼んでいるのですが、どうやらいろいろと余計なことを仕込んでいる様子。全く困ったものです。私の計画が台無しになったら、あいつのせいです。ただではすませません。
「ミヨコのやつ…まあいい。とりあえず、ご飯を食べよう」
 冷蔵庫にある料理をレンジにかけます。なんだか視線をかんじるなと思っていると、まだちせがいます。
「ちせ。もう寝なさい。9時だよ」
「え〜、久しぶりにお父さんいるのに、もうちょっと起きてるぅ」
 しかたないなとつぶやきながら、ついつい笑みがこぼれてしまいます。ちせも並べるの手伝ってくれて、食事の支度もできました。
「最近、学校はどうなんだ? なんかおもしろいことでもあったか」
「ん? まあまあかなぁ。そんな変わったことはないよ」
 ちせはポテトサラダの皿を私の前に出しながら言います。
「そうか」
「それよりもさ、このポテサラ食べてみてよ!」
「ああ」
 山盛りになったポテトサラダに箸をつけながら一口食べる。
「どう? おいしい?」
「まあ、おいしいけど」
「やったぁ!」
 はしゃぐちせ。
「それね、わたしがつくったんだよ。最初から最後まで。みよこちゃんに手伝ってもらわずにつくったんだからね!」
 それでやたらとポテトサラダを気にしていたのか。
「量が多すぎるのは困るが、味はバッチリだ」
「エヘヘ、つくりすぎちゃったけど、のこりはわたしが食べるから」
「いいから、座ってなさい」
 自分用の箸を持ってこようとするちせを制し、私は再び椅子に座りなおさせました。そんな私の様子に、少々困惑気味のようです。でも、ちゃんといっておかねばなりません。
「ちせ。包丁は触っちゃダメだと言ってなかったか?」
「あ…でも、大丈夫。使えるから」
「できるのはわかった。けど、包丁はとても危険だから、一人で使ってはいけないと前にも言ったよね」
「うん…」
 しゅんとするちせ。
「そういうことは、お父さんがちゃんとみてるところでやってほしいんだよ。わかるね?」
「わかる…わかったよ……でもさ、お父さん、今日は早く帰れるからって言ってたからなんかしてあげたくてがんばってつくったんだよ? 今そんなこといわなくてもいいじゃない!」
 みるみる目に大粒の涙がたまっていきます。
「お父さんのバカーっ!!」
 言い過ぎたかと思ったときにはもう遅く、ちせは部屋の方に走っていってしまいました。

 ……
 食事を済ませ、シャワーを浴び一息。ちせの部屋はしんと静まり返っています。泣いたままふて寝してしまったのでしょう。たまに早く帰って親子の会話を持てたというのに、これでは父親失格です。
 わずかに残ったビールを一気に飲み干し、仕事疲れと気だるい感じをひきづりながら、寝室に入りました。
 ちせがいました。
 私のベッドで目を赤くはらしたまま寝ています。2才のころやめて以来でていなかった親指しゃぶりをしながら、毛布にくるまっています。ちせもいっちょまえにストレスを感じていたのでしょう。
 今日はソファかなと覚悟を決め、部屋を出て行こうとすると、ちせが目を覚ましてしまいました。
「お父さん、ごめんなさい。ここで寝ちゃって」
「いいよ。もう遅いから、そのままそこで寝なさい」
「ねえ、お父さん、いっしょに寝て」
「わかったよ。ちせが寝るまで、隣にいてあげるから、早く寝なさい」
「うん」
 そううれしそうに返事をされると、照れくさくて困ります。髪を引っ掛けないように気をつけながらベッドに入ると、ちせが抱きついてきました。
「あったか〜い」
「ちせのほうがあったかいぞ。ベッドもあったかくしてくれてありがとな」
 エヘヘ、と照れくさそうにちせは笑うと、ベッドの奥からなにやら取り出します。
「そうそう、ミヨコちゃんからもらったんだけど、これお父さんすきなんでしょ?」
 出てきたのは……聴診器。
「お医者さんになりたかったから、お父さんはこれが大好きだって言ってたよ」
 ……あいつ、殺す。
「あと、それを使うときはこれをはかないとダメって。よいしょっと」
 ちせはパジャマを放り投げると、『グンゼ』とおおきく書かれた布がへそまで隠れるぐらいのパンツ一枚の姿になりました。
「ち、ちせ!?」
「お医者さんごっこするときは、このパンツじゃないと『萌え』ないからってミヨコちゃんがくれたんだけど。お父さん、『萌え』って何? よくわかんない」
 ちせ、今おまえが小首をかしげている姿が『萌え』なんだよって教えてやりたい……って違います。こんなことをさせてはダメです。せっかくの『光源氏計画』が台無しになってしまいます。ちゃんと大人になってからじゃなきゃ。
「ちせ、そんな格好してはダメだぞ……って、ちせ、おまえが持っているその赤と青のキャンディは、ま、まさか!」
 グンパンの奥から取り出したビー玉ぐらいの大きさの飴玉を手のひらに転がして、ほほを朱に染めながら、ちせは私に背を向けました。
「これは、わたしが買ったの。お父さんを喜ばせたい、どうしたら喜ばせられる? って近所の駄菓子屋『いも屋』のおばちゃんに聞いたら、これを飲みなさいって。メルモの不思議のキャンディだって。わたし、お父さんの喜ぶところ見たいもの。だから、おこづかいで買ったの」
「ちせ……」
「だから、飲むの」
 ごくん。
 ちせが青いキャンディを飲み込むと、体が光に包まれ、みるみるうちに10歳年をとったのです。歳はすっかり大人の歳に。身体はつるぺたで、まるで最終兵器彼女のような体型でしたけれど。
「10歳年取ったのに、胸大きくなんない〜。やだぁ。これじゃ、お父さん、喜ばないよぉ」
 うっすらと盛り上がったくらいしかない胸を触りながら嘆くちせ。
「ちせ、そんなことないぞ。いや、むしろ『萌え』だ。萌えすぎだ」
「えっ、お父さん、ひょっとしてロリな人?」
「そんなこと無いぞ。微乳派なだけだぞ」
「じゃあ、喜んでくれる?」
「ああ、喜ぶとも。喜びまくりさ。今までずっとがまんしてたあんなことやこんなこともしちゃうんだぞかわいいなぁちせもうたべちゃいたいなもうだめだみてるだけでどうにかなりそうだちせはわるいこだなああわるいこだともそういうわるいこはおしおきしゃなきゃだめだなんだなそうだおおきなちゅうしゃしちゃおうかなどうしようかな」
「ねえ、お父さん。さっきから漢字が入ってなくてとっても読みにくいんだけど」
「そんなこときにしちゃだめなんだなそんなことよりもおとうさんってよぶんじゃないぴっちとなまえでよんでくれなきゃぐれちゃうぞもともとむすめじゃないんだから」
「え!!」
「そうさ、ちせ! 俺の胸に飛び込んで来い!!」
「ぴっちさーん!!」


 ……
 先日こんな夢を見ました。本当にもうやばいんじゃないかと思います。
 誰かこんな私に休みをください(切実)。


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第6回 「バレンタインとキョニュウと」


 今日はバレンタイン。
 案の定何事もないので、泣きながらダッシュで家に帰ります。
「ただいま……うわっ」
 帰ってくるなり、娘(養女)のちせ(仮名)が飛びついて来ました。
「おかえり、おとうさん。どうだった?」
「何が?」
「んもぉ、チョコだよ。チ・ヨ・コ」
「そんなもん買ってきてないぞ」
 首に巻きつく娘をひっぺがえしてダイニングに入ります。
「買うんじゃなくて、もらうでしょ。バレンタインのチョコはもらわなかったの?」
「あー、今年から会社での義理チョコは廃止になったんだ。だから、ない」
 ぶーたれながら、ちせもダイニングに入ってきました。
「それにしたって一個もチョコ無いなんて。おとうさん、もてないの?」
「うるさいな。おとうさんはそんなお菓子メーカーの陰謀には荷担しないのだよ。よって、チョコなんぞ、無い」
「ホントに!?」
 今日のちせはかなりしつこいです。これでかわいくなくて、養女でなかったら速攻張り倒すとこなのですが、ほほを膨らましているちせを見るのも私は好きなのですから、いたしかたありません。
「もうっ! 今日はわたし、チョコが食べれると思って、すっかりチョコモードになってたのにぃ」
「そんなに食べたいなら自分で買ってきたらいいじゃないか」
「そ、それは……なんかちがうでしょ。もうっ」
 なんだか今日のちせはモーモー言ってばかりで、『牛』モードのようです。私が部屋着に着替える間中、うろうろとおちつきなくリビングを歩きまわっています。
「ちせ、腹減ってんのか? 今作るから……」
「そうじゃないよ、もうっ!」
 言うなり冷蔵庫にまっすぐ進んで何かを取り出すと、私のほうに投げてよこしました。
「なんだ、これ」
「チョコ。わたしからおとうさんに」
 渡された包みは1.5Lのペットボトルぐらいの大きさで、丁寧にラッピングされています。
「おお。ありがと、ちせ」
 私が礼を言うと、照れくさそうにちせは背中を見せました。
「おとうさんかっこいいからモテモテだろうし…あ、でもそんなおとうさんが好きなんだけど。で、いっぱいチョコもらってくるかと思ったから、もらってきたチョコはぜーんぶちせが食べちゃって、おとうさんにはわたしのチョコだけたべてもらおうと思ったんだ」
「ちせ……」
「それなのに、おとうさん、今年は一個ももらってこないから、わたし、チョコたべられないじゃない。去年はもらったけど捨てちゃったって言ってたから、たくさんあると思ったのに」
 そんなこと言ったっけかな。適当にウソついたのがばれそうになり、あわててことばをつなぎます。
「すまない、ちせ。実はな、おとうさん、チョコ好きとはいってもたくさんはいらないほうなので(←本当)今年は断っちゃったんだ(←見栄)。それに、ちせから食べたいチョコはちせのだけだったからね」
「おとうさんったら! じゃあ、早速食べて」
「お、おう」
 ペットボトル状の箱をほどくと、中から巨大なチョコレートが出現しました。
「なあ、ちせ」
「なに、おとうさん」
「すごい量だな。これ」
「うん。1キロぐらいあると思うよ。おとうさん、チョコ好きでしょ?」
「ん、まぁ…少しくらいなら
「何か言った?」
「いや、何でもない」
 目の前の巨大な1キロの塊が、甘い匂いを辺り一面に撒き散らしています。先程も言いましたが、私はチョコは少しなら好きだが、たくさんはいらないほうなのです。しかも、食べられるのはビター限定。
 しかし、この塊から発せられる臭気は……
「ちせ、ちなみにこれはミルクチョコレートか?」
「そうだよ。すんごくあまくておいしいんだから」
 やはり……ミルクチョコレート1キロ。さすがに食えない。これが、起伏の少ないちせの無垢な素肌に頭からつま先もちろん大事なところに至るまでまんべんなくきれいに塗りたくられたミルクチョコレート1キロならば、それはちせを立たせたままもうあますことなくすみからすみまで舌だけで舐め取っていく鼻血が出ようが耳血がでようが関係なくたっぷりと唾液をつけてべたべたにしながら素肌が完全に見えるまでやってしまいそうするとちせのかわいらしい口から甘い吐息がもれてしまうかもしれないがそれはそれで『萌え』なのでOKそんなちせにすわりこまないよう軽くしかりつけてそのまままだかたくとざしたつぼみの部分にぬりつけられたにっくきミルクとカカオと砂糖の集合体をゆっくりそして優しくとかしていってあげるのに……
 おっと、あまりにもキツイ状況下なので、おもわず逃避行動に出てしまいました。いけない、いけない。
「おとうさん、ひょっとして、食べれそうにない?」
「いや、そんなことはないが……ちせが食べられないのに、おとうさんだけ食べるわけにもいけないだろ?」
 お、我ながらいい言い訳です。
「ちせも一緒にたべよう」
「ん〜でも、わたしはおとうさんに食べてほしいな。おとうさんのために作ったんだし」
 作った?
「ちせ。火を使ったのか? この間、いけないと言っただろ……」
「だから、ミヨコちゃんのところで教えてもらいながらつくったの。だからだいじょうぶ」
「そうか」
「うん。だから、おとうさん、全部食べて」
 ちせの気持ちはとってもうれしいです。ですが、この量は私にとっては致死量こえてます。何とかして全部食べるのを阻止しなければ、糖尿病になってしまいます。ただでさえ、尿酸値高いのに(実話)。
「ちせの気持ちはわかった。ありがとう。でも、ちせもチョコ好きだろ? 一緒に食べよう。な」
「ん〜でも、そうすると、ちせ、バクニュウになっちゃうけどいい?」
 は?
 何を言ってるんだ?
「ミヨコちゃんが、ミルクチョコレート食べてばっかりいるとバクニュウになっちゃうって言ってたんだ。おとうさんに言ったらよくわかるからって言うんだけど、バクニュウって何?」
 美代子のやつ、また変なことを吹き込んで…しかし、そうだったのか。ミルクチョコ食べると乳が育つのか。
「ねぇ、おとうさん聞いてる?」
 こんな1キロの塊食べたらそりゃ育ちまくりだろうなぁ。
 爆乳……Gカップがちせに……
「おとうさん! 聞いてる?」
 二十歳の誕生日、ちせの胸に巨大な脂肪の固まりがゆさゆさ……せっかくの収穫期が、父子から男女の関係に変わるそのときに、爆乳……
「ねぇ、おとうさん! おとう…」
ひぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃっっつつつ!!!!
「! おとうさん!?」
「嫌だ嫌だ嫌だぁ! 爆乳嫌だぁ! そんな脂肪の塊をちせにくっつけるくらいなら、ミルクチョコがなんぼのもんじゃああああい!!」
「おとうさん! しっかりしてぇぇえええ!」
「食うぞ。食うぞ。徹底的に食い散らかすぞ、ミルクチョコぉおおお! ちせに与えるミルクは、私のミルク汁だけでいいんだぁああ! 私のちせを汚すやつはこの世から消し去ってやるゥゥゥウウウウリィィイイイ!!」
「おとうさん!」
「I カップなんて人じゃないぞ! Bが最高! BはバストのBィイイイイ!!
「おとうさああぁぁぁああん!!!」


 何事も適度でなくてはなりません。気をつけなくては。


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第7回 「いろんな意味で女の子の日」


 今日は桃の節句。
 うちも小さいながらおひなさまを飾ります。
「ちせ、いつまでそこにいるんだ?」
 娘(養女)のちせは、おひなさまに興味しんしんの様子。じっとお内裏様や、官女の顔をのぞいています。
「ねね、おとうさん」
「なんだ?」
「うちのおひなさまっておおきいね」
 うちのひな壇は9段あります。
「それはな、おとうさんのおばさん、ちせの大おばさんが人形会社の人でね。何年か前に行った時に、近くにあった一番大きいやつをパクって…いや、いただいてきたんだよ。ちせのためだから、おばさんもこころよくいいやつをくれたんだ」
「そーなんだ。きれー」
「そろそろごはんできたから、すわってなさい」
「はーい」
 小さ目の振袖をぶんぶん振り回しながら、ちせはキッチンの方に入ってきました。
「ちせ、こっちにきたらせっかくの着物がよごれちゃうだろ」
「えー、手伝うよ。おとうさん、何運べばいい?」
 いつもの違う格好なのでか、少しはしゃぎながら目の前にあった煮物なんかを持っていこうとします。
「こら、おとなしくしてなさい」
「だってー、ひまなんだもん。ミヨコちゃんもおくれるっていってたし」
 ばたばた。
「ひまひま〜」
「女の子の日ぐらいおとなしくしてなきゃだめだろ」
「だってー、着物きついし、動けないし、おとうさんは料理ばっかりしてて遊んでくれないし、つまんないんだもん」
 たしかに今日は朝からまともにちせの相手をしていません。夕方にくる妹の美代子や客にふるまう料理−ちらし寿司やら煮つけやらで忙しいのです。
「あそんでー」
「もうちょいで終わるから、待ってな。ほら、リビングに甘酒用意しておいたから、それでも飲んでなさい」
「ちぇー」
 舌打ちをしながらリビングへ走っていくちせ。せっかくこの日のために着付けまで習って着せたのに、その苦労も台無しです。似合っているから観賞用にはバッチリですが。眼福。
 それはそうと、急いでやらなければならないことがいっぱいです。がんばらなくては。

『ピンポーン』

「ちょっと、ちせ出てくれるか。お客来たみたいだ」
 リビングに声をかけますが、全く反応なしです。
「ちせー」
 ダメです。しかたなく、火を止めて玄関へ出て行きます。また、ちせに騒がれても困りますし。


「ったく、うるさい新聞勧誘だったな。誰が今時洗剤なんかで契約するかよ。どうせなら、低温ロウソクとソフトロープ詰め合わせでも持ってこいってんだよ……ちせー、起きてるかー」
 うざい勧誘を追い返しリビングへ戻ってきたのですが、ちっともちせの反応がありません。
「ちせー。ちせー!」
「ふぁーい」
「起きてるなら、もっと早く返事……って、ちせ、顔が真っ赤だぞ!?」
「なぁにいってんにょぉお、おとうしゃん。ちせ、あかくなんきゃないにょぉ」
 ちせは言うが早いか、私の頬に手加減なしのビンタを食らわしてきました。
「いてっ! なにするんだ」
「きゃはは、おもしりょい〜」
「ちせ! おまえ、おとうさんの『泡盛 熟成12年(40度 定価5000円)』のんだな!」
「おいしきゃったよほぉおおお」
 ぐてんぐてんで首がすわってません。それでも動き回るものですから、着物もはだけてきました。ついつい目がいろいろなスポットに行ってしまいます。結構ちせも育ってきました。あと何年かしたら立派な果実となっていることでしょう……って、そんなこと考えている場合じゃありません。
「甘酒がおいてあっただろ? なんでこっち飲んでるんだ!」
「だってぇ、いつもおとうさん、こりぇおいししょーにのんでたきゃら、どんなのかにゃーって。きゃははは」
「まったく。とにかく、水。水飲みなさい」
「そんなこといってぇ」
「はいはい」
 酔っ払いは相手にしないに限ります。適当に流そうとしていたのですが、ちせがずっとこっちを見ているので、なんとなくずーっと眺めてしまいました。
「おとうさん、おとうさん」
「なんだ」
「さっきからちせのことじろじろみてりゅでしょ〜」
「! なに言ってるんだ。早く水飲みなさい。」
「うそぉ、わかってるんだよぉ、ほら、この辺とか気になるでしょぉ」
 ちせは立ち上がると、帯の下をはだけて太ももをあらわにします。
「こ、こらっ。な、な、なにをしてるんだ?」
「っていいながらぁ、ずっとみてるでしょぉ。でもね、おとうさんはぁこの状態がすきなんだよねぇ、パンツ見えちゃうより
「!?」
「あと、この帯とって『あれーーっ」ってまわしてみたいでしょ。だよねぇー?」
 図星をずばり指されて、ついついあわててしまう私。
「ち、ちせ。さっきから何を…」
「ほかにも、わたしがおふろに入るときにぬいだパンツ、すぐにとりだしてニオイかいだり口に入れたりしてるよねぇー
「(滝汗)」
「あとあと、パソコンの『ちせコラ集』ってフォルダに、ちせの合成写真を山ほどつくってたりするよねぇー
「(激汗)」
「ねぇ……」
「ちせ?」
「……」
 急にちせはうつむいてしまいました。無理もありません。自分の父親が、ありとあらゆる変態行為に及んでいるのですから失望するのも当たり前です。
 場をなんとかしようと、必死の思いで私は声をかけました。
「なぁ、ちせ…」
「……なんで…」
「ん?」
「…なんで……もうっ!」
「う、うわっ」
 顔をのぞきこんだ私に、ちせは思い切り体当たりして飛び込んできました。
 私は何とかこらえようとしましたが、床に激突してしまいました。
「いてて」
「なんで…」
「え?」
「なんでおとうさん、そういうことしたいって言ってくれないの?」
「ええっ?」
「わたし、いつもおとうさんに甘えてばかりで何かできないかとおもって…」
「ちせ…」
「そんなときにお父さんの本棚の後ろのほうに置いてあった『こうしたら男は気持ちよがるのです−女のテクニック88選−』って本を見つけて
「……えええっっ!」
「それみたら、おとうさんの趣味のことがいろいろ書いてあって」
「確かに書いてあるけど……」
「それで、その本で一生懸命練習したのよ、わたし」
「えええっっっ!!」
「だから、女の子の日の今日ぐらいはおとうさん! ちせにいろいろさせて!」
「ええええええっっっつつつ!!!!! だめだめだめだだめだぁあ」
「そんなこと言って、おとうさん。ココ、こんなになってるよ」
「何をしてる!」
「うふふ」
「ど、どこでそんなこと覚えたんだ」
「本に、お父さんみたいな人はこういうと萌えるって書いてあったもの」
「なるほど……」
「そして、ココをこうすると……」
「うわっ! やめなさい、ちせ!!」
「それで、さらにこう……」
「あああっ! ちせぇええ〜〜〜!!」
「おとーさーん、もっともっと楽しませてあげる!」
「ひぃああぁあっつぁああああ!!!!!」

 女の子の日 ラヴ。


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第8回 「おとうさんと花見」


「はやく起きてよ!」
「うーん、もうちょい寝かせて……」
 休みの日の朝のおとうさんはいつもこうだ。どうせまたヘンなゲームか、あやしいがぞうをだうんろーどして朝まで起きてたにきまってる。休みの日の前はいっつもそうなんだから。まともに起きてきたためしなんて、ない。
 ふだんならそれでもゆるしてあげるんだけどね。おしごと、いつもがんばってるし。でも、きょうはダメ。
「はーやーくー、おきてぇ!」
「うわっ! そんな耳元で言わなくたってわかるって」
「これぐらいしないと、おとうさん、起きないでしょ?」
「わかったわかった。でも、今度からはやめてくれ。耳に息がかかって朝から異常な気分になるからな
「? はーい」
 おとうさんはときどきよくわからないことをいう。耳に息がかかったら何がいけないんだろう。
「なぁ、ちせ」
「なに?」
「まだ、8時じゃないか」
「そうだよ」
「おとうさんは調教とか緊縛とかに忙しくて、5時に寝たんだけど……」
「だって、今日、花見につれてってくれるっていったじゃない」
 はっとした顔をするおとうさん。また、わすれてたなぁ。もう。
「そ、そうだったっけ?」
「そうだよ。きのうの夜におべんとうもつくったじゃない」
「そ、そうだったな。ははは」
「ホントに……まあ、いいや。だから、はやくいこ! きがえてきがえて」
「はいはい」
「『はい』は一回でしょ!?」
「……はい」
「よろしい。それじゃ、10分でしたくしてね」
 もたもたときがえをはじめるおとうさん。ちょっとおどおどしたかんじが小動物っぽくてかわいいっていつも思うんだけど、そんなこといったらおこられるだろうなぁ。
「今日はいい天気だよ。おとうさん」
「なに! 曇りじゃないのか!?」
「うん。天気予報はずれたね」
「じゃあ、やめにしないか、ちせ」
「えっ! なんで?」
 なんでそんなこというの? せっかく、ひさしぶりにおとうさんとおでかけできるんで、朝はやくおきていろいろじゅんびしたのに!
「だって、お父さんが花粉症なの知ってるだろ?」
「うん」
「晴れの日なんかに外に出たら、お父さんは顔じゅう涙と鼻水が入り混じったぬちょぬちょの粘液でぐちゃぐちゃになってしまうんだよ、顔射されたみたいに
「う、うん」
 またわからないことばが出た。あとで辞書でしらべよーっと。
 でも、今はそれどころじゃない。
「お父さんはもちろん、そんなのお父さんと歩くちせも嫌じゃないか?」
 ちょっと想像してみる。う〜ん、たしかにイヤかも。
「でも、花見いくっていったじゃない!」
「それは『曇り』という条件が揃ってこその選択肢だったのだよ、ちせ。しかし、今日は快晴! 昨日の雨の後のこの快晴という状況下では、花粉の飛散量は最悪と言っていいだろう。お父さんのTh2抗体が暴走しまくることは間違いない」
 おとうさんったら、さっそく昨日の『あるある大辞典』ででてきたことばつかってる。あたらしいことばつかうの好きなんだなぁ。って、こんなのもどうでもいいんだった。
「花粉症なんて、マスクしていけばいいじゃない」
「そんなものでは防ぎきれない! というわけで、今日はやめにしよう。わかってくれ」
「うそつきー」
「しかたないんだよ。花粉症には勝てないんだから」
「うそつきうそつきー」
「今度、曇りになったら行くから」
「来週になったら、もうさくらちっちゃうもん」
「桜が春に咲くことを恨んでくれ」
「うそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつききつつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきもちつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうえつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきしたつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきーーーー!!」
「どさくさに紛れて変なこと言わなかったか?」
「うそつきとは、おはなしできません!」
「おいおい」
「あーあ、せっかくいろいろよういしたのになぁ。おとうさんのすきなアミタイツとウサ耳セットとか、ようちえんのときにつかってたスモッグとか」
「……」
歩くと"キュッキュッ”ってなるサンダルとか、スカートよりも大きいカボチャみたいなブルマとか」
「……(ゴクリ)」
「そしてミヨコちゃんにきいてよういした、とっておきの『わかめ酒』なんかもあったのに」
「! ち、ちせ!」
「あーあ、どうしようかなぁ。ためしにやるだけやってみようかなぁ、『わかめ酒』
「ちせっ!」
 ロコツな反応を見せるおとうさん。
「お、おまえ、生えたのか?」
「まあ、いいや。しかたないからかたづけよーっと」
「いやぁ、ちせ。今日はいい天気だなぁ! 絶好の花見日和だよ、なぁ?」
 ふふふ、かかったね。
「そうかなぁ?」
「いやいや、この日本晴れの天気! 穏かな春風! かぐわしい桜の花の香りがこの日本全体に広がっているかのようだ。まさにDay of 花見。今日花見せずして、いつするというのだ!」
「ふーん」
「さあ急げ、ちせ! すぐに出るぞ」
「もういくの?」
「ああ、もちろんだとも。お父さんはすでに支度できているぞ」
 ホントだ。いつのまにきがえたんだろ。
「じゃあ、さっき作った『わかめ酒』飲んでって。そしたら行こ」
「ん? できてるって?」
「あのね、いつもおとうさん、休みの日は起きたらすぐにお酒のむから、つくっておいたの」
「つくるって…違う子のかい?
「ん? わたしがつくったんだよ。ちょっとまってて、もってくるから」
 キッチンにおばのミヨコちゃんにいわれたとおりつくったグラスをとりにいく。そして、おとうさんにわたす。
 ホントだ。ミヨコちゃんのいうとおり、おとうさんは変なかおした。
「こ、これは何だ?」
「だから、『わかめ酒』。好きなんでしょ、おとうさん」
「これはただの『わかめを入れた酒』のような……」
「はいはい、それのんだらいくよー」
「ちょっと、ちせさん?」
「はやくのんでねー。ちせもしたくするからぁ」
「ねえってば……」
「のみおわったら、シンクに入れておいてね」
「おーい」
 おとうさんのかなしそうなさけび声をききながら、部屋に入るわたし。
 よかったぁ、花見いけるぞっ。
 それにしてもミヨコちゃんすごいなぁ。ほとんど言ったとおりになったよ。感謝感謝。
 でも、おとうさんにはちょっとかわいそうなことしちゃったかな? まあ、今度インターネットでしらべてホントの『わかめ酒』つくってあげるから許してね。てへっ。


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第9回 『スクール ディリュージョン』


「ただいま〜」
「ちせ、何時だと思ってるんだ!」
 近頃は日がのびたとはいえ、今は7時近く。まわりもさすがに薄暗くなってきている。
「ちょっと話してたら遅れちゃったんだ」
 部屋に入るなりカバンをポンとソファの上に投げ出すと、自身もそこに沈み込んだ。私が怒っているのがわかっていないらしい。
 普段どおりの態度の娘(養女)に毅然とした父親の姿をみせつけなくてはならないようだ。
「だからと言って、こんなにおそくなるのか?」
「あ、ホントだ。7時だね」
 今ごろ気づいたように言う。しかし、言動に反省の色がない。
「話が盛り上がっちゃってね。これからはもう少し早く帰るから」
「そんなに盛り上がったのか、あの男の子と」
「えっ、なんで男の子ってわかるの?」
 ビックリして起き上がるちせ。
「お父さんは全てお見通しなのだよ」
 帰りが遅いのでベランダから辺りを見回していたら、男の子と一緒に帰ってくる娘を目撃しただけなのだが、ここは親の威厳のために黙っておく。
「で、名前はなんていうんだ?」
「名前?」
「その男の名前だ」
 私の親の威厳オーラにひるんだのか、ちせはソファの上に正座になった。うむうむ、素直でよろしい。
「つよしくんだけど」
「名字は?」
「何でそんなこと聞くの?」
 不思議そうに尋ねる。そんなの決まっているじゃないか。
「変な虫がつかないようにお父さんには常にちせの周りをしっておく義務があるのだよ」
「変な虫じゃないよ、つよしくんは」
「それだ!」
 大げさに額に手を当て、私は天を仰いだ。
「ちせ、若い男ってのはな、うまいこといってちせのような純粋無垢な女の子を洗脳して都合のいい自分像を刷り込んでいって『わたし、彼がいないとダメなの!』というように思わせるんだ。そして、機が熟したら獣となって一気に収穫に入って来るんだよ。そういった危険な生きものからちせを守るために、お父さんは日夜いろいろなものを犠牲にして闘っているんだ。さあ、男の名字を言うんだ」
「つよしくんは危険な生きものなんかじゃ……」
「ああっ! ちせが反抗的な態度を! いつもいつもお父さんのことを大切に思ってくれていた優しい優しい自慢の娘だったのに!! まさか、ま・さ・か、そんな態度をおとうさんであることのこの私、ぴっちに向けられる日がこようとは!! もうお父さんは生きていく気力を全て失ってしまったよ」
「おとうさん?」
 次第におろおろし始めるちせ。
「ああっ! やっぱり私がダメな親なばっかりに、ちせが不良になってしまった!! こんなことではお天道様に顔向けができない……」
 がっくりとうなだれ、私は床に膝をついた。
「おとうさん、名字ぐらい言うから……」
 苦悩する父親の姿に良心が痛んだのか、しおらしく私の肩にちいさな白い手を差し伸べながらちせは言った。あまりのかわいらしさに思わず身もだえしそうだったが、こらえながら娘を促す。
「加藤くんっていうんだけど」
「そうか、加藤つよしね」
 聞くが早いかすっくの立ち上がって、私は愛用のPCににっくき獣の名を入力した。
 豹変する父親の姿にビックリしたのか、ちせはソファに倒れこんだ。
「何してるの、おとうさん?」
「ああ、加藤つよしがどんなやつか調べているところだよ。……っと、あったあった。遠くからはよく見えなかったがタダのガキンチョだな(←あたりまえ)。成績は4教科合計が18、体育と図画工作が5と。性格は明るく誰とでも気さくに話すムードメーカー的なタイプか。学校では評判がよさそうだな」
「何それ」
 PCのモニターに移る『加藤つよし』のデータを見て怪訝そうな顔をする。ふふ、父親の力に驚いているようだ。
「さっきも言っただろう。お父さんは常にちせの周りのことを知っていると。これは、ちせの通っている先生、生徒のあらゆる情報が詰まったデータベースだ。……ふむふむ、思ったとおり人間関係はBランク。かなり人気者だな。お調子者だが憎めない。運動会ではリレーのアンカーで応援団長か」
「そんなところまで……」
「で、ちせ」
「はい」
「こいつとなんでこんな時間までいたんだ?」
「え? つよしくんとは帰りに会っただけで、いっしょにいたわけじゃないよ」
「なに?」
 こいつが私のいたいけなちせを連れまわしていたわけではないのか。
「つよしくんはこれから塾に行くところで、たまたま会っただけだよ」
 そうか。こんな小学校からモテオーラの片鱗を見せているようなチャライ男になんかちせが引っかかるわけがなかった。杞憂もはなはだしかったというわけだな。
「じゃあ、こんな時間までどこに行ってたんだ」
「学校にいたよ」
「そんなに遅くまで何してたんだ?」
なんでそんなこと聞くんだろうというような不思議そうな目で私を見る。
「先生のお手伝いしてた」
「なにぃ! 先生だと!
「うん」
 なんてことだ! もっと事態は深刻じゃないか! 今の世の中で教師ほど信用できないものなどいないのに。(注:この妄想雑記はあくまでフィクションです。登場人物のセリフもモチロンフィクションですのでご了承ください)それを証拠毎日にZAKZAKを開いてみても教師の不祥事がニュースになってないことなんてないじゃないか!
 いつもいつも学校にいくちせにロリコン教師の魔の手がのびやしないかと心を痛めていたのに、まさかこんなに早く毒牙にかかろうとは。
 ちせはかわいすぎからよそ様の子よりも早かったのか! ぴっち、一生の不覚!!
「お父さん、大丈夫?」
「何を言ってるんだ! 私のことより、ちせは大丈夫なのか!? 変なことはされてないのか?」
「別に、プリントの印刷をするのを手伝ってただけだよ」
 印刷だって!? 
 印刷なんて手伝ったらそれこそ思う壺じゃないか。
 服が汚れちゃうから体操服に着替えなさいとか言われてちせのきれいな太ももが小さなブルマからすらり露出されてしまう。それだけでも危険なのに、汗かいたら先生が洗濯してあげるからねぇ汗臭いのなんて全然平気だからむしろそっちのほうが萌えいやいやこっちの話だからねさあその汗の染み込んだ体操服を脱ぎさってまだまだ青いつぼみにすらなってない小さな胸を先生の前に露にしてごらんはぁはぁ……
 ゆ、ゆるさん! 確認せねば!!
「体操服には着替えたのか?」
「え、うん。服が汚れるからって言われて体操服にした。だから汚れなかったよ」
「ち、ちがうもので汚されたりかけられたりきれいにしてごらんとか言われなかったか?」
「あー、機械が汚れたからきれいにしてたんだけど……」
「なにぃいいい! きれいにしただと!」
「うん。きれいになったよ。さわってもつるつるになるくらい」
「さ、さわったのか!?」
「え、うん。すごいんだよ」
「なにが!」
「わたし、がんばったから、もうピカピカ。なめても大丈夫なくらいだよ、えへへ」
「な、な、なめたのか!?」
「そんなことはしないよ……って、おとうさん、なんでベルトを外してるの!?
「ちせが、ちせが、くされ教師にブルマ姿にされた上、さわらされなめさせられかけられ汚されて……お父さんは、お父さんは……」
「おとうさん、その右手に握られた『ローション−オレンジ味』って書いたものはなに!?」
「もう、最後の女の子の一番大事なものぐらいしかお父さんは奪うことができないんだ。許してくれ、ちせ! おとうさんがふがいないばっかりに、お父さんのものを最初に触らせてあげられなくて!!
「おとうさん、おとうさーーーん!!」
「ちせーーーーー!!!」


 学校ってこわいですね。


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第10回「星に願いを」


「できたよ〜」
 娘(養女)のちせが帰ってきたようだ。いそいそと玄関に赴く。
「結構時間かかちゃった。おばあちゃん、なかなかお話ししてて、始めてくれないし」
「そうかそうか。お、似合うじゃないか、ちせ」
「えへへ」
 照れくさそうに笑うちせ。
 今日は七夕ということで、私の母親のところでちせは浴衣を着せてもらいに行っていた。なんでも、父親が新しい浴衣を買っていたらしい。まったく孫バカで困る。
「紫に若草色の帯か……。オヤジの趣味まるだしだな」
「おじいちゃん、すっごく喜んでて、ビデオ撮りまくってたよ。後で編集してからわたしとお父さんに渡してくれるって」
「……変なポーズとか取らされなかったか?」
「えっ? そんなのなかったよ」
「そうか」
 あのクソオヤジのことだから、何をするかわかったもんじゃない。今日はオフクロが一緒だったから派手なことはして無いと思うが、気をつけなければ。
 それにしても、紫の浴衣が白い肌によく似合う。普段腰近くまで伸びた髪がまとめられているのも新鮮だ。これで、大股で部屋中を走り回るのをやめてくれれば言う事はないんだが。
「ちょっと、ちせ。止まりなさい」
「なに?」
「せっかくの浴衣がくちゃくちゃになってしまうじゃないか。しばらくそのまま止まってなさい」
「え〜」
「しばらくでいいから」
 まったく、せっかくの浴衣が台無しになるところじゃないか。
 立ち止まったちせの肩を両手で抑え、くるりと後ろを向かせる。すると、いつもは髪に隠されて見ることのできないうなじが、恥ずかしげもなく露になっていた。細く長く伸びた白い首に数本の黒い後れ毛
 た、たまらん。(ハァハァ)
 メロメロ(死語)です。あー、もうナメまわしてぇ! じんわりと汗でしめって光が乱反射しているその首根っこを思う存分味わいたい! めったに見ることのできない浴衣の時の醍醐味! ビバ、浴衣!
「ねー、もういい?」
 おっと、いけないいけない。我を忘れるところでした。
「もうちょい待って」
 すかさず私は買ったばかりのカメラ付き携帯を取り出し、画像保存。当然待ちうけにその場で設定。これでしばらく喰うに困りません。ゴハン三杯は余裕でいけます。
「いいぞ」
「もう、お父さんもおじいちゃんとおんなじカッコで撮るんだから」
「……何?」
「おじいちゃんもさっきのお父さんみたいに、わたしの背中ばっかり撮るんだよ。やっぱり親子だね〜。ヘンなの」
「……あのジジィ、殺す!」
「ねぇ、おとうさん。短冊かざろうよ、タンザク!」
「あ、ああ」
 まったく油断もすきもない。後で実家に行ってビデオを差し押さえに行かなければ。
 ベランダには今日の朝届いた笹がおいてある。ベランダにおけるぐらいだからそんなに大きなものではないが、昨日からちせと作った飾りがつけられていてそれなりに見える。後は雨が降らないことを祈るだけなのだが、七夕の日というのはなぜか雨が多い。今年もどうやらダメそうだ。
「雲多いねぇ」
「そうだなぁ。一降りきそうな感じだな」
「じゃあ、今年もおりひめさまとひこぼしさまは会えないのかな?」
「みんなで一生懸命雨が降らないようにお祈りすれば降らないかもしれないな」
「よし! じゃあ、タンザクに雨が降らないようにって書いてくるね!」
 そう言うと、ちせは自分の短冊をつけないままに、中に入っていきました。
 ……よくできた子です。ええ、本当に。
 母親がいなくとも、父親とも血がつながっていなくてもやさしい子に育ってくれました。どこへ出しても恥ずかしくない子です。むしろどこへも出したくないです。変な虫が付いても困りますし。
 しかし今、大変重要なことに気がついてしまいました。さらによくできた娘になってもらうため、心を鬼にして怒らねばなりません。ああ、つらい。親は本当につらいものです。
 遠めに見ても見えるくらい大きな字で『晴れますように ちせ』と書かれた短冊をにぎりしめた娘がベランダに戻ってきました。
「見て見て。コレで大丈夫だよね?」
 得意げにちせは私の目の前に短冊おきます。
「ちせ」
「なに?」
「浴衣の下にパンツはいてるな」
「? はいてるよ」
「浴衣の下にはパンツをはいてはいかん!」
「え〜、そうなの? なんで?」
「浴衣の下にパンツをはくと、せっかくの浴衣にパンツのラインが浮かび上がって興が冷める」
「はいちゃいけないの?」
「そうだ。古来から浴衣の下はすっぽんぽんと決まっているのだ。かの福沢諭吉先生も

『浴衣の上にスカートをつくらず。浴衣の下にパンツをつくらず』

と言っているし、さらに古くは万葉集の中にも

『七夕の浴衣の女子(おなご)五割増しただライン見ゆると夏も冬なり』

とある。それほど昔から浴衣からラインが見えることは縁起が悪く興ざめなものとされているんだ」
「へー、そうなんだ」
「そうなのだよ。だから、脱ぎなさい」
「ぬぐの? ぬいだらなんにもないからスースーしてさむいよ」
「それが粋というのものだ。さあ、脱ぐんだ」
「え〜」
「いいから脱げ!」
 声に怒気を含めると、観念したのかしぶしぶとパンツを脱ぎ出した。
 ゆるせ、ちせ。これもしつけなのだ。お父さんも好きでやっているわけではないんだよ。わかってくれ。
「はい。ぬいだよ」
「ふむ。では渡しなさい」
「渡すの?」
「渡しなさい!」
「……はい」
「よし」
「……って、なんで臭いかいでるの?
「……よし」
「よしって、何がいいの? で、なんでそのまま笹にかざってるの?
「これはちせが立派なレディになるおまじないだ。うむうむ、絶景かな」
「そうなの?」
「そうだ」
「ふーん」

 ラインのない浴衣を着た娘と、笹の葉に混じってゆれる白のパンツ。
 今年もいい七夕であった。


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